2025年06月30日
会社経営をしていて、「もう事業は動かしていないけれど、破産まではしたくない」「とりあえず休眠にしておこう」と考えたことはありませんか?
実はこの「休眠会社」と「破産」は、まったく異なる選択肢であり、目的や影響も大きく違います。
休眠状態なら会社を残しておける一方で、債務があるまま放置すれば、思わぬトラブルに発展することも。逆に、破産すれば会社は清算されますが、代表者の責任整理も含めて一度リセットが可能です。
この記事では、企業を動かさない判断に直面した経営者や幹部の方に向けて、「休眠」と「破産」の違い、どちらを選ぶべきかの判断基準を、弁護士がわかりやすく解説します。
1. 休眠会社とは? ~あえて“動かさない”会社の実態
休眠会社とは、登記上は存在していても、実際には事業活動を行っていない会社のことです。法律上「休眠」という明確な定義はありませんが、税務署に異動届出書・廃止届出書等を出すことで「休業中」として扱われるようになります。
また、登記を長期間放置していると、法務局から「みなし解散」処分がなされることもあります(※12年間登記がない場合など)。詳細は法務省の公式情報をご参照ください。
休眠会社には以下のような特徴があります
・会社を将来再開する予定がある場合に選ばれる
・法人格を維持することで、M&Aや取引再開に活用できる
・ただし、法人住民税や銀行口座の維持など、一定の管理コストがかかる
特に注意すべきは、債務が残っている状態での休眠化です。会社が動いていなくても、代表者個人が連帯保証をしている場合には、金融機関や債権者からの請求は止まりません。
つまり、休眠はあくまで「活動の一時停止」に過ぎず、債務整理や責任の免除にはつながらない点に注意が必要です。
2. 破産とは? ~会社の“終わらせ方”とその法的効果
会社の破産とは、経済的に立ち行かなくなった法人が、裁判所に申し立てをして清算を行う手続きです。裁判所が破産手続開始を決定すると、破産管財人が選任され、財産を債権者に公平に分配します。
この手続きにより、会社は法的に「終結」することになります。
破産の主なメリットは以下の通りです
・債務の処理が明確になり、督促が止まる
・代表者の連帯保証債務も、個人破産を併用すれば整理可能
・社会的にも正式な整理として信頼を保ちやすい
デメリットとしては
・官報に掲載される
・社会的信用が一定期間失われる(代表者が役員に就けないなど)
・手続きに弁護士費用や予納金などのコストがかかる
会社の資産や債務、代表者の保証状況によっては、法人破産+個人破産をセットで行うことが生活再建の近道となります。詳しくは裁判所の破産案内もあわせてご確認ください。
3. どちらを選ぶべき?判断のための3つの視点
① 事業再開の可能性があるか?
もし将来的に再開したい、あるいは新たな事業と統合する予定があるなら、休眠という選択肢は有効です。ただし、事業の再建見込みが乏しく、赤字・債務が膨らんでいる場合は、破産でリセットする方が現実的です。
② 債務が残っていないか?
休眠会社でも債務は消えません。特に連帯保証がある場合、代表者に請求が及び続けます。債務が残っているなら、破産による清算が必要です。
税務処理としても、国税庁の「法人の異動等の届出」を出しても債務免除にはなりません。
③ 精神的・金銭的な負担はどうか?
破産には心理的抵抗や手続きコストがありますが、今後の追及を避けて前を向けるという点では、むしろ「心の負担が軽くなる」とおっしゃる経営者も少なくありません。逆に、毎年続く休眠会社の維持費や債権者対応に悩まされ続ける方が重荷になるケースもあります。
まとめ ~休眠か破産か、迷ったときは「会社の未来」を見据えて
会社を「止める」選択は、経営者にとって重い決断です。
しかし、休眠と破産では、将来の再出発や法的責任に大きな違いがあります。
・休眠は“保留”の選択肢。債務がなければ有効な手段
・破産は“終結”の選択肢。債務や保証があるなら、リセットとして有効
どちらの道を選ぶかに迷ったときは、まずは専門家にご相談ください。
当事務所では、経営者の方の意向や現状に合わせた現実的な選択肢をご提案しております。お気軽にご連絡いただければと思います。
【弁護士の一言】
今回は、あえて「破産」と「休眠」を対比的にご説明しましたが、本来は休眠ではなく、「清算」という会社の財産を整理して終結させるほうがベターです。ただ、残念ながら、資金がなくて破産等へと向かうのに、破産するにも、清算するにもお金がかかるという問題があります。
特に破産については、弁護士費用も発生しますし、裁判所に「予納金」という管財人弁護士の報酬相当の金銭預託も必要となります。そのため、完全に資金がショートしてしまうと、残念ながら「休眠」という選択しか取れないケースも多いです。逆に、収支が回らないことは明らかだが、手元資金が残っているケースについては、「破産」か「清算」という、正式な手続による会社の終結手続を利用するのが良いと言えるでしょう。
【文責:弁護士 山村 暢彦】