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ずさんな業者のせいで生じた「余計な費用」。 賠償請求は、できる? -賠償請求に関する裁判所の考え方-

2024年09月13日

1.損害賠償の考え方の基本
 実際にトラブルになってしまった場合の「損害賠償」について、裁判所の考え方の基本を解説していきます。

 

 裁判所は、個別の事件に対して、個々の裁判官による裁量によっても判断を出していくので、かなり柔軟に裁判例を出している印象があります。もっとも、一般の方の感覚からすれば、「こんなに被害を被っているのに、なぜ損害賠償を認めてくれないの?」という疑問が生じる場面も多いと思います。
 まずは、裁判所の大筋の考え方をみていきましょう。

 

2.差額説とは?
(1)裁判所の考え方、基本は「差額説」
 裁判所が損害賠償額を考える際に、基本に置いている考え方は、「差額説」だと言われます。差額説とは、相手の債務不履行がなければ、あったであろう状態と現状との差額を、賠償すべきだ、という考え方です。
 つまり、本来あるべき姿に回復する部分について、賠償すべきというものです。この説明だけ聞いていると、非常に合理的な考え方にも思います。しかし、個別に損害を被った方からすれば、不十分に感じる賠償額に止まることも多々あります。

(2) 新築アパート建築工事で、「余計な費用」がかかった。どうなる?
 基本的なところを、新築アパート建築工事を例に見ていきましょう。
 本来、5,000万円でアパートを建ててもらう契約だったのに、業者Aに落ち度があって、雨漏りが生じました。その雨漏りを直すために、別の業者Bに工事を依頼し、1,000万円の修繕費が発生しました。業者Aに、雨漏りのないアパートを建築してもらう契約だったのですから、本来あるべき状態に必要な1,000万円の修繕費を、業者Aに損害賠償請求すべきだという理屈になります。
 シンプルな状態に見えますが、現実は異なります。業者A側からすれば、「その工事は、1,000万円もの修繕費は発生しない。うちでやれば修繕をすれば300万円程度で済むはずだったのに、過剰に請求している」、などの言い分が出てきます。他方、施工主側からすれば、「一度雨漏りのする建物を作った業者なんて信じられない。他の業者に依頼したら1,000万円の見積だったのだから、それぐらいはきちんと賠償しろ」という言い分が出てくるでしょう。
 こじれることも多いのです。

(3)どんな賠償項目なら、認められるのか
 先の新築アパート建築工事・雨漏りを例に続けます。
 具体的にみていくと、以下のような賠償項目が現実的には生じてきます。
①入居予定者が、一時的にホテル住まいをせざるを得なくなったため、そのホテル代で200万円発生した
②雨漏りが嫌だと入居予定者が退去したので、新規入居者の募集費用が発生することになった
③修繕のための業者Bとの打合せや、入居予定者への説明等で、施工主が仕事を休んで、対応しなければならなくなった
④施工主自身では、どこまで責任追及できるか分からないので、弁護士へ相談し、その相談費用が発生した
⑤トラブル時の言い合いなどで精神的ストレスを感じて、施工主としては精神的慰謝料も請求したいと考えている

 

 ①のホテル入居のための費用は認められやすいですが、それ以降の②~⑤までは、認められる可能性が低い項目になります。また、①のホテル代も、高級なホテルや必要以上の滞在費の請求は困難です。それでも、賃貸アパートを貸すことができない以上、賃借人に対して必ず発生してしまう賠償費用ですから、業者A側へ請求できる可能性は高い項目と言えます。
 ②の退去費用についても、原因が雨漏りなのだから当然賠償請求したいと施工主は考えると思いますが、退去の目的が「本当に雨漏りが原因だったのか、どうか」という問題が生じる可能性があります。こういうことは業者側から出てきやすい主張です。
 また、③のように、トラブルが生じたことにより、施工主自身の対応時間や対応労力が必要となったという点は、裁判所の考えとしては、ほとんど賠償対象に入れてくれることはありません。④の弁護士費用と⑤慰謝料についても、基本的に認められる可能性が低いものです。

 

(4)重視されるのは、「確たる実損」
 裁判所は、事案ごとに、細かく賠償項目や金額について検討するので、「差額説」という大まかな指針だけでは説明できないものも多いです。端的に言うと、「確たる実損」ベースで損害賠償を考えていく、というのが分かりやすい説明かと思います。

 

(5)金額が確定しづらい内容は、認められにくい
 裁判所というのは国民に紛争が発生した場合に、最終的に線引きをして、紛争を解決する機関です。そのため、紛争を終わらせるため、どこかで線引きしなければなりません。そして、事案ごとに判断するとは言っても、あっちの事件とこっちの事件とで、大まかな指針がずれても不公平感が出てきます。そのため、細かくは個別事情をみて判断するといっても大まかな指針が必要であり、それが「差額説」であり、分かりやすく言い換えると、「 実損 」ベースでの賠償です。
 裁判所の国家機関としての役割からくる制度的な限界、一線を引いた対応なのだと思います
 さらに、裁判所は、公平性を重んじる機関であるため、確からしいと分かるだけの資料、すなわち「証拠」で確定できる賠償金額が定められます。そのため、「確たる実損ベース」での賠償額の認定が多いです。「これぐらいは損害だろう」とか、「こういう損害もあっただろう」と、金額的に確定しづらい賠償金額については認めづらい傾向があると言えます。

 

3.まとめ
 今回は、損害賠償に関する基本的な考え方を解説しました。
 被害にあった場合には、「大変な思いをしたのに、なぜすべての損害を賠償してくれないんだ」と憤慨する気持ちもあるでしょう。しかし、裁判所には裁判所の考え方があります。
 企業経営者としては、トラブルになった際に、裁判所はこのような判断で動くんだな、と知っていただくことで、事前対策に繋げていただきたいと思います。大きなトラブルに発展する前に線引きをして、トラブル総額を減らす、譲歩してよい落としどころを見つけるなど、法的にできること・できないことを把握しておきましょう。

 

【文責:弁護士法人 山村法律事務所】