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裁判所で、困ったときにできること ~民事訴訟の3類型~

2024年10月08日

1.困ったときにできることって?
 今回は、「裁判所で、困ったときに何ができるの?」を、お話していこうと思います。経営者でも、裁判を経験したことがある方は少数だと思いますし、「裁判所なんだから、正義に沿って、しっかりと真実を究明してくれる!!」と思いがちですが、意外と(残念ながら?)、そんなことはありません。裁判所で行われる裁判も、人がやることですから限界はありますし、そもそもそんなに柔軟な制度ではありません。
 経営者の立場として困ったときに、裁判所で行う類型を一つずつ解説していきます。

 

2.裁判所の基本設計
 ごく簡単に説明すると、基本的に裁判所というのは、「判決」により「終局的に紛争を解決する」ための司法機関といえます。すなわち、国民間でトラブルが生じた場合に、紛争が解決できないと困る。また、その解決基準がまちまちだと困る。そのため、裁判所という国家機関によって紛争を解決し、その解決基準も最高裁判所によって統一的にしていこう、というものです。
 この際の紛争の解決基準・解決結果が、「判決」です。紛争が何度も蒸し返されても困るので、この判決には既判力という力が働き、同一の紛争は蒸し返されないという効力が生じます。地方裁判所の第一審判決に異議があれば控訴して、第二審の高等裁判所の判決を得る、それでも納得しなければ最高裁に上告して最高裁の判決を得る、と幾つか異議は出せますが、最終的には「判決は確定」して、「既判力」をもつようになります。
 実際上は、判決だと柔軟性が低く、それを取得するまでには非常に長い解決期間を要するので、和解で終結することが多いです。

3. 民事訴訟の3類型
 このように裁判というのは、最終的に「判決」によって紛争解決することを念頭にしていますので、その判決の種類によって、訴訟の種類が分けられています。基本的には、以下の3つです。
  ①給付判決を得る給付訴訟
  ②確認判決を得る確認訴訟
  ③形成判決を得る形成訴訟
 教科書的には、このように三種類あります、との説明になりますが、大部分が①給付判決を得る給付訴訟といっても過言ではないかと思います。

(1)給付判決
 要するに、「お金を払ってくれ」とか、「賃料未払いだから、立ち退いてくれ」などという請求に、強制執行できる「執行力」という力を付与する判決です。裁判所で判決を得てまで紛争解決するポイントは、①「終局的に解決する」=必ず終わる、という点と、この②「執行力」=相手がいうことを聞かなくても法的権利実現のために、国家の強制力を得て、モノやお金を動かせるという点が大きいからです。

(2)確認訴訟
 法律関係の存否を裁判所の判決にて明らかにする、という訴訟類型です。給付訴訟と違って判決を得ても、強制執行等はできません。「法律関係だけを明らかにして、紛争は解決するの?」なんて疑問が浮かぶかもしれませんが、まさにその通りで、裁判所の制度としても、この確認訴訟は、確認判決があれば紛争が解決するという特殊な状況でなければ、そもそも訴えることを認めてくれません。これを「確認の利益」といいます。わざわざ確認訴訟のような特殊な訴訟を行う特別な理由がないといけない、ということですね。

 訴訟イコール、原則、給付訴訟ということです。
(③の形成判決を得る形成訴訟は、特殊なので今回は省略します。)

 

 例えば、イメージしやすいのは、相続での「遺言書無効確認の訴え」かもしれません。相続手続を開始する前に、遺言書が有効で遺言書どおり分配すべきか、遺言書が無効で法定相続分どおりに分配すべきか、遺言書の有効無効によって相続手続の帰趨が大きく変わってきます。
 他方、たとえば、「1000万円、支払え」と訴えるのは、お金を渡せという執行力を求める訴訟なので給付訴訟なのですが、反対に「1000万円の支払い義務は、ないはずだ」という債務不存在確認訴訟は確認訴訟になります。給付訴訟の裏側になると、確認訴訟になるということです。
 教科書ですと理論的な問題も生じるのですが、特殊なケースを除いて、自分から「1000万円の支払い義務はない」という訴訟を起こすことは少ないと思います。なぜなら、訴訟を起こすと、弁護士費用や労力が発生してしまいますから。

 

4.まとめ
 今回は、裁判所の基本的な制度設計と訴訟類型の基本についてお話しました。この記事だけだと、「結局、裁判所で何ができるんだろう?」と感じるかと思います。
 簡単にまとめると、給付訴訟のように、結局「お金を払え、建物を引き渡せ、立ち退いてくれ」というような、シンプルな強制執行の対象にできることしか要求ができない、というのが裁判制度の原点です。

 「あれを交換条件にして、あーして、こーして」というのは、裁判では、あまりできずに、相手方と協議できる和解の際に、多少柔軟にできるか可能性があるかどうか、というところかもしれません。

 

【弁護士の一言】
 裁判は、「長い」・「お金がかかる」・「ストレスになる」というのは、知られていると思うのですが、「柔軟性がなく、融通が利かない」というのは、意外と知られていないように感じます。
 雑な言い方になりますが、「請求権」、それも基本は「金銭請求権の有無」を確定できるのが裁判です。フレキシブルに「あーしてこーして、こういう条件で終結させたい」というのは裁判制度としては限界があり、そのため、会社が絡む係争等では相手方にもよりますが、極力裁判制度を利用せずに、臨機応変に解決を図る必要性が高いと言えるでしょう。

 

【監修:弁護士法人山村法律事務所】