2025年07月15日
労働トラブルの未然防止と紛争対応のポイント
建設現場で働く従業員の労務管理に、日々頭を悩ませている工務店経営者や現場責任者の方も多いのではないでしょうか。
「今日はちゃんと働いているのか」「作業時間の記録が曖昧だ」「給与計算はこのままで大丈夫か」――そんな不安を抱えながらも、現場任せの管理体制のまま放置してしまう企業も少なくありません。しかし、労働時間や賃金をめぐるトラブルは、ある日突然、高額請求や訴訟という形で表面化します。労働者保護が厚い法制度のなか、企業側が圧倒的に不利になってしまうケースも。
この記事では、建設業に多い労務トラブルの実態と、実際に顧問弁護士として対応した解決事例をもとに、未然防止と紛争対応のポイントをわかりやすく解説します。
「現場任せ」が招く落とし穴:建設業における労務管理の難しさと典型トラブル
建設業では、オフィス勤務と異なり、現場に出た従業員の勤務状況をリアルタイムで正確に把握するのが難しいという現実があります。現場監督がいても、作業の進捗や安全管理が主な役割であり、「労働時間の記録」や「業務の実態確認」までは手が回らないケースが少なくありません。また、作業時間が日によってまちまちになりやすく、勤務報告も口頭やざっくりとした日報で済ませてしまう体質が根強い業界でもあります。「○時〜○時まで現場にいた」という申告に対し、企業側が明確な反証を持っていなければ、法的にはその申告が認められるリスクもあります。
さらに、建設業ならではの“気前の良さ”が裏目に出ることも。たとえば「手当込みでこのくらい払っておこう」といった曖昧な取り決めが、後に「実際の労働時間と合っていない」「深夜・休日割増が抜けている」などの理由でトラブルに発展し、未払い残業代や賃金請求を受ける事例が後を絶ちません。
こうした「現場に任せきり」の管理体制が、結果として数百万円規模の請求につながるリスクをはらんでいるのです。
実際に起きた裁判・請求事例:残業代700万円→300万円へ減額した顧問対応とは?
労務トラブルは、単なる書面の不備や管理の甘さから、突如として「高額請求」という深刻な経営リスクへと転化します。実際、ある工務店では、不良社員から約700万円の残業代等を請求され、裁判に発展したケースがありました。
この案件では、労働時間の管理が曖昧で、作業日報も形式的にしか残っておらず、会社側の立証が難しい状況でした。しかし、当事務所が顧問弁護士として介入し、勤務実態に照らして反論を積み重ねるとともに、「過大請求である」と合理的に主張を構築。粘り強い交渉と証拠精査を重ねた結果、最終的に約300万円まで大幅に減額することができました。
また、他にも類似の事例として、
・400万円の残業代請求 → 150万円で和解
・500万円の請求 → 100万円で和解
といったように、企業側が適切に対応することで、数百万円単位の減額が実現できた例は少なくありません。
もちろん、請求がゼロになることは稀ですが、「最初の請求額にすべて応じる必要はない」という点は強調しておくべきでしょう。重要なのは、弁護士が早期に関与することで、証拠整理や法的主張の戦略を明確にし、過大な請求に対して毅然と交渉できる体制を整えることです。
トラブルを防ぐには?社労士×弁護士による“現場型”リスク管理のすすめ
建設業における労務トラブルの多くは、「あとから問題になる」点に共通項があります。つまり、日々の現場管理における“ちょっとした抜け”が、数ヶ月〜数年後に大きな請求や紛争として返ってくるという構造です。
こうした事態を未然に防ぐには、実態に即した労務管理体制をあらかじめ整えておくことが重要です。とくに有効なのが、社会保険労務士(社労士)と弁護士が連携してサポートする「現場型」の管理体制の構築です。たとえば、以下のような取り組みが有効です。
・就業規則や雇用契約の見直し:建設現場ならではの勤務形態(直行直帰、天候による中断など)を踏まえた文言にすることで、後々の齟齬を防ぎます。
・勤務時間の管理方法の明文化:スマホアプリやGPS打刻など、技術を活用して“見える化”するだけで、証拠力が大きく変わります。
・ 支払ルールの明確化:手当や残業代の計算方法を曖昧にせず、書面で明確に取り決めておくことが肝要です。
さらに、万が一トラブルが発生しても、日常的に顧問弁護士と連携していれば、すぐに事実確認と対応方針を決めることができ、初動の遅れによる悪化を防ぐことができます。
経営者や現場責任者の方が「あとで困る」状況を回避するためには、「今できる仕組みづくり」が最も効果的な防御策です。専門家を味方につけて、実務に根ざしたリスク管理を始めてみてはいかがでしょうか。
まとめ:建設業の労務トラブルは「現場管理」と「初動対応」がカギ
・建設業では、現場特有の勤務形態や慣習により、労務トラブルが表面化しやすい構造があります。
・曖昧な賃金計算や労働時間管理が、高額な残業代請求や訴訟につながるリスクも。
・こうしたトラブルは、社労士・弁護士と連携し、「現場実態に即した労務管理体制」を構築することで、未然に防止できます。
当事務所では、建設業の顧問実績が豊富にあり、実際に高額請求を大幅に減額した例も多数ございます。「ちょっと気になる」「対応が不安」という段階からでも、お気軽にご相談ください。
【弁護士の一言】
私のキャリア上でも、昔に比べて、労働法制はドンドン企業側に厳しくなっているという印象です。建築業界も、「2024年問題」と言われるように、残業時間規制が強くなり、より労基署等の審査の目も厳しくなっています。どうしても業界構造的に労務時間管理が難しい側面もありますが、近年は、アプリ・システムの発達によって、分単位で労務管理がしやすくなってきた面もあります。
少なくとも現代では昔ながらの労務管理では通用しません。実体的な労務管理というシステム等の導入や、社労士・弁護士等の連携による就業規則整備等が必須の時代になってきたと言えるでしょう。