2025年08月07日
「おたくの会社から個人情報が漏れている。慰謝料を払ってほしい」
そんな電話やメールが突然届いたら、現場はどう動くべきか。
昨今、中小企業を狙った“個人情報流出を名目にしたクレーム”が増加傾向にあります。実際に漏洩があったケースもあれば、明確な証拠のないまま慰謝料を請求されるケースもあります。
裁判例では、情報漏洩に基づく慰謝料は「1人あたり数千円〜数万円」と比較的低額ですが、対応のまずさが重大なコンプライアンスリスクへと発展する事例も。本記事では、個人情報漏洩にまつわるクレームの慰謝料相場と裁判例、企業が取るべき具体的対応策を、企業法務の専門弁護士が解説します。
個人情報流出クレームと裁判例の慰謝料相場|実務で多いパターンと留意点
企業に届く情報漏洩クレームは、大きく2種類に分けられます。
・実際に漏洩事故が起きたケース
・「漏れている気がする」と主張する根拠不明なケース
後者の場合、「精神的苦痛を受けた」として慰謝料を請求されることがあります。しかし、裁判所が認める慰謝料は、通常1人あたり数千円〜数万円程度にとどまります。たとえば、2014年に発覚したベネッセコーポレーションの顧客情報流出事件では、漏洩対象者に1人あたり1,000円~3300円の損害賠償請求が認められたにすぎません。
とはいえ、「金額が小さいから放置しても問題ない」という考えは極めて危険です。対応の過程で、
・謝罪がない
・誠意ある説明がされない
・担当者が不明瞭
などがあれば、相手方の怒りを煽るだけでなく、SNS上に実名で晒されたり、報道機関へのリークにつながるおそれもあります。
放置すれば炎上・行政指導のリスクも|金額ではなく「対応姿勢」が問われる時代
「仮に裁判になっても大した金額じゃない」と思っている経営者は要注意です。
今、社会や取引先、株主が注目しているのは“誠実な初動対応”です。
企業の対応が遅れたり、マニュアルが未整備で場当たり的な対応をしてしまうと、「企業体質に問題がある」と見られかねません。また、情報漏洩クレームの裏には、
・元従業員による内部告発
・顧客による執拗なSNS投稿
・弁護士や行政機関への通報
が潜んでいることもあります。1件の対応ミスが、企業の信用を大きく揺るがすことは珍しくありません。特に、2022年改正で義務化された報告・通知制度への理解は不可欠です。詳細は個人情報保護委員会・漏えい等の報告・通知制度をご確認ください。問い合わせ窓口の整備、対応記録の保存、初動マニュアルの策定などを事前に準備しておくことが、結果的に企業を守ります。
個人情報保護法と企業の義務|初動対応で“レッドカード”を回避するには?
2022年の個人情報保護法改正により、一定の漏洩事案では以下の義務が企業に課されています。
・個人情報保護委員会への報告
・本人への通知義務(速やかに)
これらを怠った場合、「報告義務違反」として行政指導の対象になるだけでなく、企業名が公表される可能性もあります。
法改正以降、漏洩の報告や本人通知の基準も明確化されており、形式だけでなく「実質的な体制整備」が求められます。また、弁護士との連携が遅れると、
• 不用意な謝罪や金銭提示をしてしまう
• 通報義務の判断がつかない
• 再発防止策の示し方が曖昧になる
といった事態に陥りがちです。企業が情報漏洩リスクを根本から減らすには、顧問弁護士を含めた対応体制の整備が不可欠です。
まとめ 個人情報漏洩クレームは「対応の質」で結果が変わる
個人情報流出に関するクレームは、慰謝料相場こそ低いものの、企業の社会的信用に直結する重大なリスクです。
「対応の質」こそが、信頼を守り、炎上・行政対応を回避する最大の鍵になります。本記事で紹介した内容を踏まえ、
• 社内の対応フローは整っているか?
• 弁護士や外部専門家との連携は確保されているか?
• 苦情を「小さな話」で終わらせようとしていないか?
今一度、体制を見直してみてください。情報漏洩リスクへの備えは、法令対応だけでなく、企業文化・信頼の構築にも直結します。「この対応、法的にどうすべきか判断がつかない」「漏洩かどうか曖昧だが、社内で揉めている」
そんなときは、ぜひお早めに顧問弁護士や情報管理に詳しい弁護士にご相談ください。初動対応の質が、企業の未来を分けます。
【弁護士の一言】
情報漏洩がないようなコンプライアンス体制という予防法務的な制度設計と、トラブルが起きた場合のクレーマー対応とでは企業がとる体制・態度や、裁判例の使い方も大きく異なってきます。基本的には情報漏洩、個人情報ほどの観点から徹底したコンプライアンス体制の整備が必要です。他方、近年、個人情報保護にかこつけたクレーマ―等が増えているのも事実です。そもそも、「個人情報が漏出したかもしれない、そうでないことを証明しろ!」などと悪魔の証明を強いるような無理難題を言ってくる方もいます。このような方には、「裁判例でも数千円の損害賠償しか認められない」のでと、毅然とした態度を取ることも時には必要です。
予防とトラブル後なのかによって対応は大きく変わりますので、適宜、段階に応じて弁護士などの専門家に相談の上対応を進めるとよいでしょう。