2025年09月01日
経営が苦しくなると、最初に現れる兆候の一つが「金融機関からの督促」です。日々の資金繰りに追われるなか、督促の電話や通知が絶えず届き、担当者や経営者の心労は計り知れません。「金利だけでも払ってくれ」「いつ返済できるのか」と詰められ、業務に集中できない状態が続くと、現場の士気にも影響を与えます。
このような状況で重要なのは、「現実的な改善見込みがあるかどうか」の見極めです。返済計画を立て直し、金融機関と条件交渉する「任意整理」は、事業継続の可能性を残す一手です。他方で、再建の見込みが立たない場合には、早期に破産を選択することで、ダメージを最小限に抑えるという判断もあります。
本記事では、金融機関からの督促にどう向き合うべきか、任意整理による再建の可否、そして破産を選ぶべきタイミングについて、弁護士がわかりやすく解説します。
金融機関からの督促が続く中での選択肢とは
資金繰りが悪化し、返済が滞ると、金融機関からの督促が始まります。最初は電話での確認から始まり、対応が遅れると書面での催告、さらには保証協会やサービサーへの債権譲渡などが行われることもあります。この段階で、経理担当者や役員が精神的に追い詰められるケースも少なくありません。しかし、ここで「何もできない」と思い込んで放置することが最も危険です。信用情報が悪化し、新たな融資が受けられなくなるだけでなく、法的措置(訴訟や仮差押え)に進むことで資金繰りが一気に崩れるリスクがあるからです。
一方で、すべての債権者がただちに厳しい措置に出るわけではありません。経営改善の見込みがある場合、金利のみの支払いで一定期間の猶予を与えるなど、条件変更に応じてくれる金融機関もあります。こうした交渉には、弁護士などの専門家が間に入ることで、冷静かつ建設的な話し合いに導きやすくなります。
督促に追われる状況でこそ、感情に流されず「選択肢を整理する」ことが再建への第一歩です。
任意整理で事業再建の道を探る
返済が厳しくなってきたとき、ただちに破産を選ぶのではなく、まずは「任意整理」という手段を検討する価値があります。任意整理とは、裁判所を介さずに債権者(主に金融機関)と直接交渉し、返済条件を見直す手続きです。特に事業が継続中であれば、「一定期間は金利のみの返済にする」「返済を一時猶予する」「返済期間を延ばす」などの柔軟な対応を引き出せる可能性があります。
金融機関にとっても、全額が焦げ付く破産より、少しでも回収できる任意整理の方が望ましい場合があるため、交渉の余地は十分あります。ただし、前提として重要なのは「今後の経営改善に向けた具体的な計画があること」です。売上回復の見込み、コスト削減策、新たな収益源など、経営者自身が現状を正確に把握し、見通しを持っていることが説得力につながります。また、任意整理は原則として「全債権者と同時に行う必要はない」点も大きな特徴です。メインバンクとの交渉からスタートし、状況を見ながら他行とも調整を図ることができます。この柔軟さが、事業を止めずに立て直す余地を残す要因となります。ただ、実務上は、金融機関が足並みを揃えたがるという実情もあり、弁護士が取りまとめを行い、各金融機関と一斉に交渉するようなケースもあり得ます。とはいえ、担当者レベルでは交渉が進まないケースもありますし、金融機関ごとの内規や与信方針により対応の差もあります。交渉の進め方を誤ると、かえって信用を損なうリスクもあるため、弁護士など外部の専門家が入ることで、交渉の土台を冷静に整えることが重要です。
任意整理は、単なる「支払いの引き延ばし」ではなく、「経営改善の猶予を得るための法的選択肢」です。将来の再建可能性がある場合には、破産に至る前に必ず検討すべき道筋といえるでしょう。
抜本的な解決が必要な場合。破産という選択肢
任意整理による返済条件の緩和や資金繰り改善が見込めない場合、視野に入れるべきなのが「破産申立て」です。破産と聞くと「人生の終わり」「再起不能」というネガティブな印象を持たれる方も多いかもしれません。しかし、現実には「抜本的なリセット」として、再スタートのための現実的な選択肢となることも少なくありません。
特に、借入金の利払いが重くのしかかり、今後の収益でも到底返済が見込めない場合や、事業の赤字が恒常的で黒字化の見通しが立たない場合、任意整理では根本的な解決に至らず、時間をかけるほど損害が拡大することもあります。そうしたとき、破産を選ぶことで、不要な資産・負債を清算し、生活再建・事業再構築へ踏み出すきっかけになります。
破産申立てにより、債権者からの督促は法的に止まり(いわゆる「破産手続開始決定」後の「債権者の取立て禁止」)、精神的な負担からも解放されます。さらに、法人の破産と代表者個人の破産は分けて考えることも可能であり、法人破産後に代表者が別事業で再起を図るケースも増えています。
ただし、注意すべきは、破産には「清算処理」であるがゆえに、会社の資産状況や従業員、取引先への影響が大きい点です。経営者個人の保証債務、賃金・退職金の未払い、在庫の処理、家賃やリース契約の精算など、多くの法的・実務的処理を伴います。これらをスムーズに進めるには、専門知識と経験を持った弁護士の関与が不可欠です。
破産は「終わり」ではなく、「始まりを作るための制度」です。再生が難しいと感じたときこそ、早めに専門家に相談し、出口戦略を立てることが、経営者としての責任ある判断といえるでしょう。
まとめ
金融機関からの督促が続くと、担当者や経営者の精神的負担は大きくなります。しかし、感情に流されず、冷静に「再建の可能性」と「抜本的な清算」のいずれが現実的かを見極めることが重要です。任意整理は、経営改善の見込みがある場合に再起のチャンスを生む選択肢であり、一方で破産は事業や生活を立て直すための法的なリセット手段です。
いずれを選ぶにしても、最悪の事態を回避し、少しでも有利な条件で次のステップに進むには、早い段階で弁護士などの専門家に相談することが鍵となります。状況を正確に整理し、最適な選択をともに考えるパートナーを持つことが、再生の第一歩です。
【弁護士の一言】
経験上、経営者の方が、いきなり破産という選択肢を考えることは難しいと思います。そのため、最初は、「任意整理の検討」という形で、弁護士に相談に来ていただくのが良いと思います。経営状況や税理士の見解も踏まえ、持続可能であれば任意整理の方針を取ればよいと思いますし、残念ながら再建が難しそうであれば、早めに破産という選択をとるほうが、リスタートが切りやすいという側面もあります。
また、この「任意整理」ですが、弁護士が付き添うことは非常に強い金融機関へのプレッシャーを与えます。なぜなら、任意整理を拒絶すると、すぐさま破産手続という選択肢がでてくるからです。この意味でも、資産状況が悪化した際の任意整理の場面では弁護士のプレッシャーが生きてくる、という点を頭の片隅に残していただければなと思います。