2026年02月12日
古物買取業の労務管理は、一般的な業種と比べて難易度が高いといえます。
その理由は、関与する人の役割や働き方が非常に多様だからです。買取営業、電話受付、流通・在庫管理といった業務内容に加え、内勤やテレワーク、地方への出張買取など、勤務形態も一律ではありません。こうした環境では、「雇用か業務委託か」といった契約形態の判断や、労働時間・業務範囲の管理が曖昧になりやすく、思わぬ労務トラブルにつながることがあります。本稿では、古物商の労務管理がなぜ難しいのかを整理したうえで、顧問弁護士が果たす役割について、実務の視点から解説します。
1)古物買取業の労務は「人の多様性」から崩れやすい

古物買取業の労務管理が難しい最大の理由は、業務に関わる人の役割と働き方が極めて多様である点にあります。買取営業のように外部へ出向く業務もあれば、電話やメールで顧客対応を行う内勤業務、倉庫や流通を担う現場業務も存在します。さらに、テレワークを中心とする従業員や、地方まで出張して買取を行う担当者など、勤務場所や時間帯も一様ではありません。
こうした環境では、一般的な「9時から18時まで勤務する従業員」を前提とした労務管理がそのまま当てはまらず、勤怠管理や業務範囲の線引きが曖昧になりがちです。
その結果、「どこからが労働時間なのか」「この働き方は雇用なのか業務委託なのか」といった点が整理されないまま運用され、後から問題化するケースが少なくありません。特に、現場任せ・担当者任せの運用が続くと、気づかないうちに法的リスクが蓄積していきます。古物買取業では、この“人の多様性”そのものが、労務管理の難しさにつながっているのです。
2)「雇用」か「業務委託」か。線引きを誤るリスク

古物買取業の現場では、「営業だから業務委託」「歩合制だから雇用ではない」といった感覚的な判断で、契約形態が決められているケースも少なくありません。しかし、労務の世界では、契約書の名称よりも実際の働き方(実態)が重視されます。指揮命令の有無、勤務時間の拘束、報酬の決まり方、代替性の有無などを総合的に見て、「労働者性」が判断されるため、業務委託契約であっても、実態次第では雇用と評価されるリスクがあります。
特に、出張買取や訪問営業では、会社が訪問先やスケジュールを細かく指示していたり、成果だけでなく業務の進め方まで管理していたりすると、業務委託としての独立性が否定されやすくなります。後から「実は雇用だった」と判断されれば、未払い残業代の請求や、社会保険の遡及加入といった問題に発展する可能性もあります。こうしたリスクは、事業が軌道に乗ってから顕在化することも多く、経営への影響は決して小さくありません。
顧問弁護士の役割は、単に契約書を作成することではなく、業務内容や運用実態を踏まえたうえで、「雇用とすべきか」「業務委託として成立するか」を事前に整理することにあります。この線引きを誤らないことが、古物買取業の労務トラブルを防ぐ第一歩となります。
3)勤怠・残業・テレワーク。管理が曖昧になりやすい領域

古物買取業の労務管理で特に問題になりやすいのが、勤怠や労働時間の把握です。出張買取や訪問営業では、直行直帰が常態化しやすく、移動時間や待機時間をどこまで労働時間として扱うべきかが曖昧になりがちです。また、「成果が出ていれば細かい時間管理はしない」といった運用が続くと、後から未払い残業代の問題として表面化することがあります。
さらに、電話受付や事務業務をテレワークで行っている場合も注意が必要です。自宅勤務であっても、業務指示に基づいて作業を行っている以上、労働時間の管理義務は免れません。「自己裁量で働いている」「空いた時間に対応している」という認識があっても、実態として業務拘束があれば、労働時間と評価される可能性があります。
とりわけ、営業時間外の問い合わせ対応や、チャットツールでの常時対応が常態化している場合は、リスクが高まります。
このような問題は、日々の運用では見過ごされがちですが、労基署の調査や退職者からの請求をきっかけに、一気に顕在化します。顧問弁護士が関与することで、勤怠管理の方法やルールを整理し、「どこまでが業務で、どこからが私的時間なのか」を明確にすることができます。曖昧な運用を放置しないことが、労務トラブルの予防につながります。
4)内部不正・横領・サボりを防ぐ体制づくり

古物買取業では、現金や高額商品を日常的に取り扱うため、内部不正のリスクが構造的に高い業種といえます。買取金額の水増しや過少申告、在庫の抜き取り、私的な転売といった行為は、発覚しにくい一方で、発生した場合の損害が大きくなりがちです。また、外回り中心の営業担当者やテレワークの従業員が多い環境では、業務実態が見えにくく、「サボり」や業務逸脱が起きても気づきにくいという問題もあります。
こうしたリスクに対して、「信頼関係があるから大丈夫」「性善説で運営したい」と考える経営者も少なくありません。
しかし、実務上は、信頼と管理は別物として考える必要があります。不正行為が発覚した後に対応しようとしても、証拠が残っていなかったり、社内ルールが整備されていなかったりすると、適切な処分や損害回収が難しくなることがあります。
顧問弁護士が関与することで、就業規則や業務フローを見直し、不正を起こしにくい仕組みを整えることが可能です。
たとえば、買取・在庫・精算のチェック体制を明確にする、記録を残すルールを徹底する、問題行為があった場合の対応手順を定めておくといった対策が挙げられます。内部不正への対応は、「起きてから叱る」のではなく、「起きにくい体制を作る」ことが、経営を守るうえで不可欠です。
5)顧問弁護士×社労士連携で作る実務型労務体制

古物買取業の労務体制を安定させるためには、就業規則や勤怠管理といった制度面の整備だけでなく、日々の運用を前提とした実務的な設計が不可欠です。この点で重要になるのが、顧問弁護士と社会保険労務士の連携です。社労士が勤怠管理や社会保険、給与計算といった日常的な労務管理を担い、弁護士が法的リスクの判断やトラブル対応を担うことで、役割分担の取れた体制を構築することができます。
たとえば、雇用か業務委託かの判断が難しいケースでは、社労士による実務運用の整理と、弁護士による法的評価を組み合わせることで、リスクを抑えた契約設計が可能になります。また、問題のある従業員が出た場合にも、感情的に対応するのではなく、「どの段階で注意し、どこまでが指導で、どこからが処分に当たるのか」といった点を法的に整理したうえで対応できます。
顧問契約であれば、単発相談とは異なり、会社の体制や過去の経緯を共有したうえで助言を受けられるため、判断のスピードと精度が大きく向上します。労務トラブルは、表面化した時点ではすでに手遅れになっていることも少なくありません。だからこそ、日常的に相談できる顧問弁護士と社労士の連携体制を整えておくことが、古物買取業の持続的な成長を支える土台となります。
【弁護士の一言】
顧問弁護士として弊所が関与する際、契約書や就業規則の整備はもちろん重要ですが、それ以上に重視しているのが「どう運用されているか」という点です。どれだけ書面を整えても、現場の実態とかみ合っていなければ、労務トラブルや内部不正は防げません。古物の買取・再販業は、営業、内勤、外部対応など関与する人が多くなりやすく、不正やルール逸脱が起きやすい構造があります。だからこそ、形式的な整備にとどまらず、不正が起きにくい体制や、問題が生じた際に早期に把握・対応できる仕組みを構築することが重要だと考えています。
