民法改正で増加するクレーム対応と契約解除の盲点とは?―建設業のための実務対策ガイド【弁護士が解説】

2025年07月18日

2020年の民法改正により、「瑕疵担保責任」が廃止され、「契約不適合責任」が導入されました。この変更は、契約通りに履行されているか否かが問われる制度へと大きく舵を切ったことを意味します。特に建設業界では、契約書の文言ひとつがトラブルの火種になりかねず、現場では「細かいミス」をきっかけに過大な要求をされる事例が増加傾向にあります。エンドユーザーがクレーマー化し、請負人側から契約解除できないまま工事を継続せざるを得ないケースも。本記事では、民法改正のポイントを建設業の実務に即して解説するとともに、契約書見直しやクレーム対応において弁護士をどう活用すべきか、具体的な対策をお伝えします。リスクと不安を減らし、現場が本業に集中できる体制づくりの一助となれば幸いです。

契約不適合責任とは?建設業界に与える実務的影響

 

20204月の民法改正で、従来の「瑕疵担保責任」に代わり「契約不適合責任」という新たなルールが導入されました。これは、工事が完成しても契約通りではないと判断されれば、発注者側(注文者)が修補請求や代金減額、損害賠償、契約解除を求めることができる制度です。

この変更は、特に建設業において重大な意味を持ちます。これまでは「欠陥」があってはじめて責任が問われていたのに対し、これからは「契約通りでない」ことそのものが責任追及の根拠となるからです。たとえば、設計図と異なる仕上がり、仕様書に記載のない部材使用、完成時期の遅延なども、広く「契約不適合」に該当しうるようになりました。

このため、請負者側としては、契約内容をより明確に定義し、工程表や仕様書、変更履歴を含めた「合意の証拠」を整えておくことが不可欠です。口頭のやりとりや慣習に頼ったままでは、「約束と違う」と主張されるリスクを排除できません。

契約不適合責任の導入により、法的責任の発生場面が拡大した今、“どこまでが契約内容か”を言語化・文書化する習慣が、リスク管理の第一歩となります。特に現場主導で進む中小建設業こそ、契約書の見直しが急務と言えるでしょう。

法務省、民法改正(債権関係)情報

 

 

クレーマー化するエンドユーザーと契約解除の困難さ

 

民法改正により、契約内容に「適合しているか否か」が厳しく問われるようになった結果、発注者側の契約書に対する意識も格段に高まりました。これに伴い、施工ミスとは言えないようなごく軽微な相違点や説明不足を根拠に、過大な要求をするケース、いわゆるクレーマー化するエンドユーザーが増加しています。

こうしたケースでは、「お客様相手」という建設業特有の気遣いもあり、現場や事務方での対応に限界が生じます。さらに問題なのは、業者(請負人)側からの契約解除が民法上は原則として認められていないことです。解除を可能にするには、あらかじめ契約書にその旨を明記しておく必要がありますが、ひな形や慣例で作成された契約書にはその視点が欠けていることが少なくありません。

その結果、不当な要求を受け続けながら、採算の合わない工事を中止できず、精神的・経済的に追い詰められていく――こうした事例も現実に発生しています。クレーム対応に追われて現場管理が疎かになる、担当者が疲弊して退職してしまうといった副次的なリスクも無視できません。

「話が通じない」「一方的に責められて困っている」という状況に陥る前に、契約段階でどこまでの責任を負うか、どの条件で解除できるかを明文化することが極めて重要です。それができていない場合、顧問弁護士とともに契約書の再設計を行うことが、企業防衛の第一歩となります。

顧問弁護士ができる対応策と未然予防の設計力

クレームや紛争が発生した際、「弁護士に頼むほどでは」と様子を見るうちに、問題が深刻化してしまうケースは少なくありません。しかし、顧問弁護士がいれば、“頼めるかどうか”を悩まず、すぐに相談し判断を仰げる体制が整います。

たとえばクレーマー対応では、相手の主張の妥当性を法的観点から整理し、「できること」「できないこと」を明確に伝えることが重要です。このとき、感情的なやりとりを避けつつ、法的根拠に基づいた毅然とした対応が求められます。顧問弁護士が窓口となれば、現場担当者の精神的負担を軽減し、交渉の主導権を取り戻すことができます。

また、紛争予防の観点からは、契約段階で「解除条項」や「支払いタイミング」「範囲外業務の取り扱い」などを盛り込む工夫が欠かせません。たとえば、工事の進行に応じて報酬を段階的に確定させる条項を設けることで、万一のトラブル時にも回収可能性が高まります。

さらに、再発防止のための社内マニュアル作成や、法改正を踏まえた契約書のテンプレート整備など、“事後対応”だけでなく、“事前整備”にも顧問弁護士は有効です。言い換えれば、日々の小さな不安や違和感を放置しない体制づくりこそが、企業の持続的成長につながるのです。

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まとめ

2020年の民法改正によって、建設業界でも「契約不適合責任」への対応が避けられない課題となっています。契約内容の曖昧さがトラブルに直結し、エンドユーザーからの過剰要求や解除困難による損失リスクも増大しています。

こうした状況を乗り越えるには、契約書の見直しとともに、事前のリスク設計とクレーム対応の体制整備が不可欠です。顧問弁護士の継続的な関与により、「予防」「対応」「改善」のすべての局面で専門的なサポートが受けられます。

企業が本業に集中し、無用なトラブルから自社と従業員を守るためにも、信頼できる法務パートナーの存在は、これまで以上に重要になっていると言えるでしょう。

【弁護士の一言】

トラブルが生じると業者側が強いように思われがちですが、建築途中にクレームを受けると、企業側としての大変難しいものがあります。誠実な企業ほど、工事現場を途中で放り出すことができず、かといって赤字になるような不当なクレームに従うわけにもいかない、という板挟みの状態になることが多いからです。実際に、弁護士が関与する際にも、不当な要求かどうかをジャッジしながら、「一応の終わり」までを目指して調整せざるを得ないことも多いです。

 また、このようなトラブルを減らすには、契約書ひな形だけではなく、建築途中でかわしていく仕様や工事内容の記録化、証拠化が必須です。昔よりも丁寧な契約変更対応が多くなってきたように思いますが、ご不安な企業は気軽に弊所にお声がけください。当初、複数件のトラブルを抱えながらも、契約書と契約実務の研修を行い、トラブルが落ち着いたという企業も多いです。

 

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