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カスハラ法義務化とは? 弁護士がわかりやすく解説

2025年01月31日

 近年、企業やその従業員が顧客から不当な要求や暴力を受ける「カスハラ(カスタマー・ハラスメント)」の問題が注目されています。これに対応するため、日本では「カスハラ法義務化」が進められています。カスハラ法義務化とは、企業が顧客からのハラスメントに対して法的な対策を講じることを義務化する法律です。
今回は、カスハラ法義務化の背景・内容、そして企業がどのように対応すべきかについて、わかりやすく解説します。

 

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1. カスハラとは?

 カスハラは、「カスタマー(顧客)」と「ハラスメント(嫌がらせ)」を組み合わせた言葉で、顧客からの不当な要求や暴力的な行動を指します。企業の従業員は、接客業務やサービス提供中に、顧客から理不尽なクレームや無理な要求を受けることがあります。これが度を越すと、従業員のメンタルヘルスに深刻な影響を与えることもあります。具体的には、次のようなケースがカスハラに該当します。

– 顧客が過度に暴力的な言動をする
– 無理な要求やサービスを強要する
– 過剰なクレームを繰り返す

 このような状況が続くと、従業員は業務に支障をきたすことがあり、企業全体の生産性にも悪影響を及ぼします。そのため、カスハラに対する法的な対策が必要とされています。

2. カスハラ法義務化の背景

 カスハラの問題は、近年ますます深刻化しています。少し前には「クレーマー」という言葉も流行りましたが、「お客様は神様だ」という一昔前の感覚が行き過ぎた価値観になってしまったのか、労働問題に焦点があてられるうえで、「カスハラ」の現状が可視化されたのか、要因はわかりませんが、カスハラ問題が深刻化しているのは間違いないでしょう。従業員の心身の健康を守るためにも、企業は顧客からの不当な行動に対して積極的に対応する義務を負うべきだという声が高まりました。

 2020年代に入り、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」など、カスハラを防止するためにいくつかの法的な枠組みが検討され、企業に対して「カスハラ対策」の義務化が議論されるようになりました。これにより、企業はカスハラのリスクを管理し、従業員が安全で健康的に働ける環境を提供する責任を負うことになっています。

3. カスハラ法義務化の具体的な内容

 カスハラ法義務化は、企業に対して以下のような義務を課すことを目的としています。

①カスハラ防止対策の導入

  企業は、従業員がカスハラを受けないように、予防措置を講じる必要があります。具体的には、顧客対応時のマニュアルや規則の整備、従業員教育の実施が求められます。これにより、従業員はカスハラのリスクを事前に理解し、適切に対処できるようになります。

②ハラスメントが発生した場合の対応策

 もしカスハラが発生した場合、企業は迅速かつ適切に対応しなければなりません。被害を受けた従業員が安心して報告できる体制を整備することが重要です。例えば、専用の相談窓口を設けたり、カスハラ発生時の対応方法を明確にしたりすることが求められます。

③従業員のメンタルケア

  カスハラが従業員に与える精神的なダメージは非常に大きいため、企業はメンタルヘルスケアを提供する義務があります。具体的には、従業員がカスハラによるストレスや不安を感じた際に、専門的なカウンセリングを受けられるような体制を整えることが必要です。

④定期的な状況確認と改善

  企業は、カスハラ対策が適切に実施されているかを定期的に確認し、必要に応じて改善することが求められます。これにより、企業全体でカスハラ対策が常に最新の状態に保たれ、従業員の安全が確保されます。

4. 企業が行うべき対応

 カスハラ法義務化に伴い、企業が具体的にどのような対応を取るべきかについて、以下のポイントを押さえておくと良いでしょう。

①カスハラ予防のための従業員教育

  企業は、従業員に対してカスハラの予防や対応方法について教育を行う必要があります。従業員がカスハラに遭遇した際に、どのように冷静に対処すればよいのか、どこに報告すればよいのかをしっかりと教育し、実践的な訓練を行うことが大切です。

②顧客対応マニュアルの作成

  企業は、顧客対応の際に従業員が遵守すべきマニュアルを作成することが重要です。このマニュアルには、カスハラを回避するための基本的な対応方法や、カスハラが発生した場合の対処法が含まれます。マニュアルを整備することで、従業員が自信を持って顧客に対応できるようになります。

③カスハラ発生時のサポート体制

  カスハラが発生した場合、従業員が被害を受けたことを速やかに報告できるような体制を整える必要があります。また、被害を受けた従業員が心理的なサポートを受けられるように、専門のカウンセラーやメンタルヘルスケアの専門家と連携することが求められます。

④顧客への啓発活動

  企業は、顧客に対してカスハラが許されない行為であることを理解してもらうために、啓発活動を行うことも有効です。例えば、店舗やウェブサイトにカスハラ防止のためのポスターや注意喚起を掲示することで、顧客の意識を高めることができます。

5.まとめ

 カスハラ法義務化は、企業にとって重要な課題となっています。顧客からの不当な要求や暴力が従業員の心身に与える影響を軽減するためには、企業が積極的にカスハラ対策を講じることが必要です。企業は、予防策、発生時の対応、メンタルケアの提供などを通じて、従業員が安全に働ける環境を整える義務があります。カスハラ法義務化により、企業はより健全な労働環境を提供し、従業員の健康と企業の生産性を守ることが求められています。

【弁護士のコメント】

 暴力、脅迫、加害的な言動等の、純粋な誰がみてもわかる「カスハラ」であれば、まだよいのですが、弁護士が一緒になって線引きを考えるカスハラは、その線引き自体が難しい問題も多いです。
 たとえば、多少の不手際や落ち度が企業側にあっても、それは謝罪程度の道義的責任にとどまるのか、金銭賠償や商品交換等の法的な責任まで発展するものなのかどうかの判断に迷うようなものです。そのため、実際にバックアップさせていただく際には、従業員研修などで、対応に迷ったとき、相談ルートの確立、実際上の対応のポイントなどに加えて、個別事案ごとに法的ジャッジに迷う場合には顧問弁護士に相談できる体制づくりなどを重視することをお伝えします。

 

 カスハラに焦点があたる理由も、昔から多かった問題に労働問題の一環として焦点があたるようになってきたのではないかと個人的には考えております。カスハラ対策が法的義務になりつつありますが、法的な強制ではなく、従業員を守るためにも、企業として真剣に考えなければならない問題だと思います。

【文責:弁護士法人山村法律事務所】