2025年07月23日
「2024年問題」という言葉を耳にする機会が増えた建設業界。背景にあるのは、2024年4月から適用される時間外労働の上限規制です。他業種に先んじて導入されてきたこの制度が、いよいよ建設業にも本格適用されることで、現場では「工期が守れない」「人手が足りない」「職人が確保できない」といった声が続出しています。
しかも違反すれば刑事罰の対象になる厳格なルール。業界ではすでに、人手不足倒産や契約トラブルが増加し、企業の生き残りがかかった構造変化が始まっています。
本記事では、建設業の「2024年問題」が企業に与える影響を整理しつつ、労務管理の見直しや業務効率化の具体策、さらには契約書整備による職人トラブル対策まで、現場目線で弁護士がわかりやすく解説します。
建設業の「2024年問題」とは?――残業規制がもたらす現場への影響
2024年4月1日、ついに建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。これまで建設業は「働き方改革関連法」の一部適用が猶予されていたため、残業時間の制限が他業種よりも緩やかに運用されてきましたが、今後は中小企業を含めて、上限を厳守しなければなりません。
原則:月45時間・年360時間以内
特別条項付き36協定ありでも:年720時間以内・単月100時間未満(休日含む)・月45時間超の月は年間6か月以内
違反すれば、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
猶予が与えられていたのは、工期遵守のための長時間労働が常態化していた背景があるため。とはいえ今後は、労働時間管理を明確化できない企業が法的責任を問われるリスクが現実のものになります。
業種別でも最多の水準となっているようです。人手不足と残業規制が同時に襲うこの問題は、全建設業者にとって他人事ではありません。
-
中小建設業の生き残り戦略――労務管理と業務効率化がカギ
-
2024年問題に対応するには、まず「実労働時間を正確に把握する」ための体制づくりが不可欠です。とくに建設業界では、「固定残業代があるから大丈夫」と誤解されている企業も多く、残業代の未払いリスクが潜在化しがちです。
たとえば以下のような業務も、労働時間に含まれる可能性があります。
・始業前の朝礼
・現場間の移動や資材準備
・終業後の報告書作成など
とくに中小企業においては、社労士・弁護士・ITベンダーとの連携を通じて、「法令を守りながら効率も追求する体制」を構築していくことが生き残りのカギとなります。
職人不足・契約トラブルにどう備える?――インボイス制度と契約書整備の重要性
インボイス制度の導入により、職人(とくに一人親方)との取引関係にも大きな変化が起きています。
適格請求書を発行できない職人は実質的に取引排除されやすくなり、そのしわ寄せは、元請・下請双方に及んでいます。加えて、残業時間の上限規制によって、雇用関係を明確化する必要性も高まってきています。
実際の現場では、以下のようなトラブルも増加傾向です。
・工事放棄による工期遅延
・雨天中断をめぐる追加費用請求
・業務範囲を巡る誤解からの支払トラブル
これらを防ぐには、「発注書+請求書」の形式だけでなく、下請企業・職人との間で「取引基本契約書」を整備することが効果的です。契約書では以下を明確化できます。
・支払い条件や納期の扱い
・中途離脱時の違約金や損害賠償のルール
・紛争時の管轄や解決手続き
これにより、「現場仕事だから仕方ない」で済まされていた曖昧な関係を、信頼と責任の明文化によって支える体制に変えていくことができます。
まとめ:建設業界を揺るがす“二重の変化”にどう備えるか
2024年問題とインボイス制度という、制度面での大きな変化が同時に訪れた今、建設業界はかつてない構造的な転換期を迎えています。
これまでのように、「現場の裁量」や「慣習」に頼った経営では、人手不足・工期遅延・契約トラブルといった経営リスクが顕在化しやすくなっています。生き残りのカギは、次の3点に尽きます。
・労務管理の整備:勤怠管理のシステム化と残業時間の正確な把握
・業務効率化の徹底:段取り改善・情報共有・IT導入で残業を減らす仕組みづくり
・契約関係の明文化:職人・下請との関係性を「信頼できる書面」によって見える化
現場に密着している中小建設業こそ、これらの対応が急務です。「うちは今まで大丈夫だったから…」では通用しない時代がすでに始まっています。
当事務所では、労働時間管理・契約書整備・労務リスク対策など、建設業界に特化した法務支援を行っております。「何から始めるべきか分からない」という段階でも、お気軽にご相談ください。
【弁護士の一言】
弊所では、多数の建設会社の顧問業務を対応させていただいておりますが、労働問題は相談が多い問題の中の一つです。他にも運送業など、勤務時間が長時間化しがち、屋外作業等がメインで労働時間管理しづらい、という業種で頻繁に起きるのが労働問題です。今まで他の業種と異なって猶予期間が定められておりましたが、それもなくなるというのが2024年問題です。運送・流通業と共に、建築でも労働問題の種がつきません。