2025年07月22日
「継続的に取引しているから、いちいち契約内容を細かく見直していない」――そんな声をEコマース企業からよく耳にします。
卸売会社や輸入業者との長期的な取引においては、継続的取引契約を結ぶのが一般的ですが、その契約内容が実務に即していなかったり、重要な取り決めが曖昧なまま放置されていたりすると、後々のトラブルにつながることも少なくありません。
たとえば「送料の負担」「納品先の指定方法」「最低発注数量」など、日々のやりとりでは見過ごされがちな条項も、数年単位で考えると大きなコストやリスクになります。
本記事では、Eコマース企業が継続的取引契約を締結する際に、特に注意すべき5つのポイントと、法的リスクを抑えるための具体的な対策を、企業法務に精通した弁護士が解説します。
継続的取引契約とは?Eコマースでありがちな「曖昧契約」の落とし穴
Eコマース企業が卸売業者や輸入商社と反復的な取引を行う際、締結されるのが「継続的取引基本契約(フレーム契約)」です。これは、個別の取引(発注・納品・支払いなど)を繰り返す前提で、その大枠となる基本ルールを定めるものです。
しかし、この契約書の内容が抽象的すぎたり、テンプレートの使い回しで十分な検討がされていなかったりすると、実務と契約内容のズレが表面化したときに、かえってリスクを生むことになります。
たとえば、送料負担についての明記がないと、法律上は売主が送料を負担するのが原則(民法485条)ですが、実務では「発注者が払うのが当然」という認識で運用されているケースもあります。このような齟齬があると、取引が拡大したときに「どちらが送料を負担すべきか」をめぐるトラブルに発展しかねません。
また、最低取引数量や単価、納品先の指定方法、在庫処理のルール、商品の瑕疵(不良品)対応なども、実際の業務フローに合わせて詰めておくべき重要項目です。こうした論点を契約書に反映していない場合、いざというときに「言った・言わない」の水掛け論になり、事業側の損失リスクが高まります。
継続的なビジネス関係こそ、最初に契約の「土台」をしっかり固めておくことが、信頼関係の構築と事業の安定成長につながります。
契約書で必ず確認すべき5つの条項【送料・在庫・瑕疵対応など】
継続的取引契約においては、何気ない条項が長期的なコストやトラブルリスクに直結します。Eコマース企業が必ず確認・交渉すべき重要条項は、以下の5つです。
1.送料の負担
契約で送料負担が明記されていない場合、原則として売主負担(民法485条)とされますが、実務では買主が支払っているケースもあります。長期にわたる取引では送料の累積額が無視できないため、「どちらが・どこまで・どの条件で」負担するのかを明記しておくことが重要です。
2.送付先の指定
納品先が複数ある場合や、都度異なる場合は、「注文書記載の場所に納品する」など柔軟に対応できる条項を設けましょう。特にドロップシッピングや委託倉庫を利用している企業では、納品先の変更対応が可能かどうかが実務上のカギとなります。
3.最低取引数量・単価(MOQ)
MOQ(Minimum Order Quantity)が大きすぎると在庫リスクやキャッシュフローに影響します。小ロット希望であれば単価アップとのトレードオフ、MOQを受け入れる代わりに単価交渉など、自社の事業戦略に合ったバランスで契約条件を調整しましょう。
4.在庫商品の取り扱い
売れ残りの在庫について、返品や引き取り、処分の条件を明確にしておく必要があります。たとえば「一定期間売れ残った場合、返品可能」「販促施策により値下げ可能」など、事前に取り決めがあれば在庫リスクを軽減できます。
5.商品の瑕疵対応
納品された商品に不良や欠陥があった場合の対応(返品・交換・送料負担など)を契約で明記しておきましょう。BtoB取引であれば、瑕疵担保責任の一部を制限することも可能ですが、実務では売主側が初期不良を無償対応するケースが多く、柔軟性と明確さの両立が求められます。
Eコマース企業が弁護士を活用すべきタイミングと交渉の進め方
継続的取引契約では、契約書の文言だけを整えても、実際の交渉がうまく運ばなければ意味がありません。とりわけEコマース企業にとっては、相手先との継続的な関係性を維持しつつ、自社にとって不利な条件を避ける“バランス感覚”が求められます。こうした場面で有効なのが、顧問弁護士による「戦略的な契約交渉支援」です。
弁護士は、単に危険条項を指摘するだけでなく、「どこを譲り、どこを守るべきか」「どう伝えれば角が立たないか」といった、交渉上のスタンスまで設計できます。
たとえば、
・「送料と送付先の2点は必ず押さえてください。最低取引数量は交渉材料にしてもOKです。」
・「この条項は、御社から直接言いづらければ“顧問弁護士の指示”として出してください。」
といった形で、企業の交渉力を後押しし、法的裏付けをもった“言い方”の工夫まで提供できます。
弁護士に相談すべきタイミングとは?
以下のような場面では、契約書案が完成する前に弁護士に相談することで、後のトラブル回避に直結します。
・相手から提示された契約書が雛形的で、具体性に欠けると感じたとき
・特定条項にリスクがありそうだが、交渉の仕方がわからないとき
・海外業者との取引や、為替・輸送など外部要因の影響が読めないとき
法的な“正しさ”と、実務的な“通りやすさ”の両方を満たすために、弁護士の活用は単なるリスク対策ではなく、経営判断の武器となり得ます。
まとめ
Eコマース企業が卸売業者や輸入会社と締結する継続的取引契約では、送料やMOQ、在庫対応など一見地味な条項こそが、長期的なコストやリスクに大きく関わります。実務に即した明確な契約内容を整えることは、将来のトラブル回避だけでなく、柔軟なビジネス展開にも直結します。
また、交渉の場面では、弁護士の支援を受けながら優先順位を明確にし、「譲るべきでないポイント」を冷静に押さえることで、自社の立場を守りつつ関係性も損なわずに済みます。
契約は事後対応ではなく、事前の設計こそが肝心です。少しでも不安があれば、早めに専門家へご相談ください。
【弁護士の一言】
弊所では、長年、Eコマース企業の顧問対応を継続させていただいておりますが、都度都度リーガルチェックにて、リスクを指摘し、リスクを限定的にしているため、大きなトラブルはこれまで発生してきませんでした。
もっとも、別企業の初回相談で、食料品関係のトラブル相談を受けたことがありますが、取引基本契約書が、不利な内容で定められていたため、その段階からはどうしようもないという事態に直面しました。その際の経験もあり、大きな問題が生じないのではなく、クライアント企業と弁護士とで二人三脚でリスク出しをしているおかげでもあって、安全な取引ができているのだなと実感いたしました。もうその企業とは10年弱のお付き合いとあり、かなり書式が整備され、新規の取引先とのリーガルチェックも迅速にこなせるようになりました。
トラブルが起きてからでは如何ともしがたいことが多く、継続的取引基本契約がメインとなる企業様で、そのリスクや法的安定性が気になる方は、気軽に弊所にお問い合わせください。