古物商は“刑事リスク”と無縁ではない。警察対応・横領事件に備える顧問弁護士の役割

2026年02月16日

古物買取業は、消費者トラブルや労務管理といった法的リスクと隣り合わせの業種ですが、もう一つ見落とされがちなリスクがあります。それが「刑事問題への発展」です。出張買取や高額商品の取引をめぐり、「脅された」「騙された」「盗まれた」といった主張がなされ、被害届が提出されるケースは決して珍しくありません。

また、従業員や業務委託先による横領や不正行為が発覚し、刑事告訴を検討せざるを得ない場面もあります。こうした事態は、事業規模の大小に関わらず起こり得ます。本稿では、古物商が直面し得る刑事リスクの実態と、警察対応を含めた実務において顧問弁護士が果たす役割について解説します。

 

1)古物商は警察案件と隣り合わせの業種

 

古物商は、日常的に金銭や高額商品を扱い、対面での取引も多い業種です。そのため、顧客との間で生じたトラブルが、思わぬ形で刑事問題へと発展することがあります。たとえば、出張買取後に「強引に売らされた」「脅迫的な言動があった」と主張され、被害届が提出されるケースです。また、「提示された金額が不当に低い」「説明がなかった」といった不満がエスカレートし、警察に相談されることもあります。

 

こうした場合、実際に犯罪が成立するかどうかとは別に、警察から事情を確認したいという連絡が入ることがあります。突然の連絡に戸惑い、現場担当者や経営者が不用意な説明をしてしまうと、その後の対応に影響を及ぼす可能性も否定できません。刑事手続きは民事紛争とは進み方が異なり、事実関係の整理や発言内容が重要な意味を持つことがあります。

 

古物商にとって、警察対応は「めったに起きない特別な出来事」ではなく、業態上、一定の確率で起こり得るリスクといえます。だからこそ、いざというときにどのように対応すべきかを事前に整理し、相談できる体制を整えておくことが重要です。

 

2)顧客トラブルが刑事事件化する典型例

 

古物買取業における刑事リスクは、突発的な犯罪行為というよりも、日常的な取引の延長線上で発生することが多いのが特徴です。たとえば、出張買取の場面で価格に納得して契約が成立したにもかかわらず、後日になって家族から「不当に安く買い取られた」「高齢者に対して強引だった」と主張され、警察に相談されるケースがあります。こうした場合、当事者間では民事的な価格交渉の問題であっても、被害届が提出されれば刑事手続きの対象となる可能性があります。

 

また、「説明が不十分だった」「断れない雰囲気だった」といった主観的な不満が、脅迫や詐欺といった刑事的評価へと転換されることもあります。SNSでの拡散や消費者センターへの相談と並行して警察への相談がなされると、事業者としては一気に対応が複雑になります。民事対応であれば示談や返金で解決できる場面でも、刑事の枠組みが入ることで、事情聴取や資料提出といった手続きが発生することもあります。

 

このように、顧客トラブルは民事と刑事が交錯する形で進行することがあり、その初動対応が極めて重要です。事実関係を整理せずに対応すると、不要な誤解を生む可能性もあるため、専門的な助言のもとで慎重に対応する必要があります。

 

3)従業員・業務委託先による横領リスク

 

古物買取業における刑事リスクは、外部の顧客とのトラブルだけではありません。内部不正、すなわち従業員や業務委託先による横領や不正行為も、現実に発生し得る重大な問題です。

たとえば、買取代金の一部を抜き取る、在庫商品を無断で持ち出す、委託販売の売上を正確に報告しないといった行為は、業務上横領に該当する可能性があります。特に、外回り営業や出張買取が多い業態では、現場の裁量が広く、不正が発覚しにくい構造がある点にも注意が必要です。

 

内部不正が発覚した場合、単に懲戒処分や解雇を検討するだけでは足りないことがあります。被害額が大きい場合や、悪質性が高い場合には、刑事告訴を視野に入れた対応が必要になることもあります。しかし、「告訴すべきかどうか」「証拠として何が必要か」「警察とのやり取りをどう進めるか」といった判断は、経験がなければ難しいのが実情です。

 

弊所では、業務上横領事件について複数の告訴実績があり、企業側の立場から刑事手続きに対応してきました。内部不正への対応は、感情論ではなく、証拠と法的評価に基づいて進める必要があります。刑事と民事を並行して整理し、事業への影響を最小限に抑えるためにも、専門性のある弁護士の関与が重要になります。

 

4)企業法務だけでは足りない理由

 

古物商の経営者の中には、「契約書を整備しているから大丈夫」「顧問弁護士が企業法務を見ているから問題ない」と考える方も少なくありません。しかし、刑事対応は通常の企業法務とは性質が大きく異なります。民事紛争であれば、交渉や訴訟を通じて時間をかけて整理することができますが、刑事案件では警察からの連絡や事情聴取が突然始まることもあり、初動の対応がその後の展開に大きく影響します。

 

また、刑事事件では「発言の仕方」「提出資料の整理」「事実関係の説明方法」などが重要になり、対応を誤ると不要な疑念を招くおそれもあります。企業法務に精通していても、刑事手続きの流れや警察対応の実務に慣れていなければ、適切な助言を行うことは容易ではありません。さらに、内部横領のように、刑事告訴と民事上の損害回収を並行して進める必要がある場面では、両面からの戦略的な整理が求められます。

 

刑事リスクは、頻繁に起こるものではないからこそ、いざ発生した際の対応力が問われます。古物商にとっては、企業法務の延長としてではなく、刑事対応を含めた総合的な法務体制を整えておくことが重要です。

 

5)緊急対応できる顧問体制の価値

 

刑事リスクに備えるうえで最も重要なのは、「何か起きてから探す弁護士」ではなく、「日頃から状況を理解している顧問弁護士」の存在です。警察から連絡が入った場合や、内部不正が発覚した場合には、迅速な事実整理と方針決定が求められます。その際、会社の業態や取引実態、過去の経緯を把握している顧問弁護士であれば、状況を一から説明する必要がなく、的確な助言を即座に受けることができます。

 

また、複数の弁護士が在籍する体制であれば、担当弁護士が不在であっても、緊急時に連絡がつき、対応を引き継ぐことが可能です。刑事対応では時間が重要であり、「すぐに相談できる」こと自体が大きな価値となります。さらに、企業法務と刑事対応の双方に実績を有する事務所であれば、民事と刑事を横断した戦略的な整理が可能になります。

 

古物商は、その業態上、刑事リスクと無縁ではありません。万一の事態に備え、平時から相談できる顧問体制を整えておくことが、事業の継続と信用の維持につながります。

 

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まとめ

 

古物商は、消費者トラブルや労務問題だけでなく、刑事リスクとも隣り合わせの業種です。警察対応や内部横領への対処は、初動を誤ると事業に大きな影響を及ぼします。万一に備え、平時から刑事対応を含めた法務体制を整えておくことが、安定した事業運営の土台となります。

 

 

【弁護士の一言】

 

刑事事件は頻繁に起きるものではありません。しかし、いざ発生すると、事業に与える影響は極めて大きいのが実情です。刑事事件と民事事件は、同じ法律分野であっても、対応の発想や進め方がまったく異なります。本来、一般的な刑事事件は刑事専門の弁護士に依頼するのが適切です。ただし、企業関連の刑事事件は少し様相が異なります。

 

たとえば、「被害届を出された」「脅迫や詐欺を疑われた」といった被疑者側の対応は、刑事弁護の経験が豊富な弁護士が力を発揮する場面です。一方で、企業内部で業務上横領が発覚した、書類偽造の疑いが生じた、といったケースでは、単なる刑事手続だけでなく、社内調査、証拠保全、就業規則との関係整理、損害回収方針の検討など、企業法務の視点が不可欠になります(※社内の不正事案では労働法にも配慮しなければならないのが、本当に頭が痛い問題なんです)。

 

弊所では、業務上横領事件の告訴対応や、企業内部不正への法的整理を複数扱ってきました。刑事と民事の境界にある案件は、どちらか一方の専門性だけでは足りません。企業法務を日常的に扱いながら、刑事分野にも対応してきた経験があるからこそ、事業を止めないための現実的な判断ができると考えています。

 

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